水の中へ山田

2008/08/23 3:33

急にどしゃ降りが来た。
私は急いで家の外に出て、崖の淵に立ち、
両手を広げ、空へ顔を向けました。

またたく間にワンピースが体に貼り付き、重くなってきました。
靴下の中の温度が下がって、空気と雨水が混ざってタプタプしています。
タプタプと音を立てながら歩きたくなる。
靴の中で、何匹もの金魚が踏まれていく。



どしゃ降りは、続く。
もう何の音もしない。
雨の轟音が、すべてを消し去る。



イグアスの滝って、こんな音かな。
それとも、もっともっと大きな音かな。

私は晴れたの日のイグアスの滝にかかる、
大きな虹のことを想いました。
アルゼンチン側から眺める「悪魔の喉笛」

イグアスの滝の上に広がる青空、
このどしゃぶりの後ろにも、青空が隠されて、広がっているのかも。



水の轟音は、どうしてうるさくないの?
この音を聞きながら、眠りたくなる。
どうして?
どうしてだろう。

わかった。
胎児の頃に聴いた音に似ているのかも。



だけど、私はいつ生まれたのでしょう。
どうやって生まれて来たのでしょう?
また、眼の奥から頭の後ろの方が痛くなってきた。

そんなことを考えたり、思い出すと苦しくなるのに、
水の轟音は、いつまでも聴いていたい。



そうして、水の音を聴きながら、幸せな気持ちになってきたら、
額の真ん中にまぶしくてあたたかいものが、やって来ました。

あたたかいものは、全身を包み込み、
やさしくて、やわらかいです。

薄目を開けたら、そこには夕方前の顔をした太陽が、
海の向こうで笑っていました。

知らないうちに雨は止んでいたようです。


私は広げた腕をゆっくりと降ろし、
今、私の眼の前に広がっている大きな虹を
額の真ん中で見ました。

蝉と山田

2008/08/07 3:33

夏だ。蝉の声。

否、蝉の音。
超音波。

超音波に包まれてみる。
自由自在にさせてやる。
なされるがままにされてみる。


蝉の音が頭の廻りを包む。
体の周囲333度をシャワーのように降り注ぐ。


囲まれた頭を大きくしながら、路地を歩く。
さっきスーパーで買ってきた卵が割れやしないかと、
気にしながら買い物カートを引きずりながら歩く。


日本の夏。蝉の夏。


超音波が背中の方まで染みてきた。
腰の方まで、したたり落ちそうです。


カナカナ? ミンミンゼミじゃないみたい。
結局、私はこの蝉の名前を知らないままでした。

(羞恥心つるのさんへ:2008盛夏)

可愛い山田

2008/07/18 3:33

頭でっかちでお尻が小さい、可愛いクマのぬいぐるみ。
可愛い、可愛い。
手触りも柔らかで可愛い。

エサもいらない、世話もいらない、糞尿の心配もない、
可愛いクマちゃん。

クマたんにチュー、地球にチュー(エコ)。
クマたんをギュー、地球をギュー(エコ)。


そんな可愛いクマちゃんと地球を可愛いと思う私の心が可愛いです。
無責任さがシャクだけれど、一番可愛いのは山田なんです。

雨の日の山田

2008/06/20 3:33

梅雨入りしたものの、
ここのところの異常気象のせいか、雨がほとんど降りません。


降らない雨を待って、
黒地に赤い花模様の傘をクルクル回しながら、
空を見ました。


雨は降りそうもないので、あきらめて地面を見たら、
赤い花が咲いていました。
赤い花は、雨が降りそうな空を見上げながら、
肌寒い風に揺れていました。



お家から出掛けない日の雨は好き。
雨が降らない日の赤い花も好き。

雨が降っている日の赤い花は、少し可哀想に見えるから。

空へ舞う山田

2008/05/19 3:33

洗濯物が乾いた午後。
取り込んだパリパリのシーツを抱きしめて、
お陽さまの良い匂いを胸の奥まで、かぎました。

あまりにも気持ちの良い、天気の良い午後だったので、
シーツをマントみたいに羽織って、庭中を駆け回りました。
タマミとカスミにも、この心地良さを感じてほしかったので、
まとめて二人を背中におんぶして、また駆け出しました。


やがて、ゆるやかに風が吹いてきて、シーツの中にもぐり込んできました。
そして、シーツはパラシュートみたいに大きく膨らんだのです。
ああ、まるで気球の中にタマミとカスミが、くるまれているみたい…。
と思った時には、もうすでに私たちは
地上から高く浮いたところにいました。


家が見下ろせるほどの、空中の高い場所。
どこまで飛んで行くのかしら。

どこまで連れて行かれるのか、分からない。
怖い、怖いよ。
どんどん、お家が小さくなっていく。
海も崖も、遠くになっていく。

帰りたい、お家に帰りたいよう。
タマミとカスミも、背中でカタカタと震えている。

でも、きっと大丈夫。3人でいれば、何とかなるよ。
いつだって、そうして暮らしてきたのだもの。

流れる山田

2008/05/02 3:33

また夜の海へ行った。

今度は潜らずに、散歩。
夜の海に舟を浮かべ、散歩。

舟の中に横たわり、胸の上で両手を組んだ。
カスミとタマミを脇に添えた。

遠くに漁火。
舟は勝手に、流れてゆく。
流し雛のように。


気がつくと、舟の周りに白い花々が浮かんでいる。
黒光りする夜の海面に浮かび、
光るような白い花びらを揺らす花々。


揺られて行く、遠くまで。
どこまで? 海の果てまで。
波が連れて行く所まで。


眼を閉じたら、本当に連れて行かれてしまうかもしれないから、
私は眠らないように、ずうっと眼を開けたまま流された。


こうして、洗い流され、みそぎ祓われていきました。

私が飼っている二体の人形、タマミとカスミのお話をしましょう。



タマミは、人前にさらされて、品定めされて、いじられて、
誉められて、愛されて、そして、クタクタに。

カスミは、床下に埋められて、隠されて、捨てられて、
解放されて、許されて、そして、クタクタに。


したくないことをしなくてはならない我慢と、
したいことができない我慢。


どっちもどっちの背中合わせ。
似ていない二人は、胸合わせ。


違う場所で、傷み分けをし、
違う場所で、甘い汁を吸い合った。


耐性と強度、
いい加減さとくだらなさ。
折れない粘土。



タマミとカスミは、出会うべくして出会い、
結ばれることもないままに、ずうっと一緒にいるの。

キッカリと凍った氷
曇りガラスのように おもてはキッシリ


   その奥に光る 丸い虹色

   氷の中に打ち上げられた 小さな花火
      透明な ひかり



向こうから覗くタマミ こっちから覗くカスミ
四角におおわれた 光の珠(たま)


   解けないうちに 明かりを消して
      春になったら 氷の中へ 桜も舞うよ



もっとそばへと タマミとカスミが
氷の中へ 飛びこんだ

まん丸い 花火の中で トランポリン
   身体を投げ出し はずんでいる


花火は綺麗、きれい



私は 光る氷をつまんで 丸ごと食べた

赤白黒と山田

2008/01/23 3:33

ポストに手紙が3通入っていました。
同じ素材、同じ大きさの、3色の封筒。

それぞれ、赤・白・黒の封筒。
表にも裏にも、何も書いてありません。
ただ、それぞれに切手が貼られていて、うっすらと消印も押されています。

薄くて見えにくい消印の文字を読んでみると、差し出し局の地名は6文字でした。
記憶にない名前です。間違えて配達されたのかな。
 
 
 
おみくじを楽しむように、
まずは、気になる赤い封筒から開いてみました。
 
『初めまして。突然のお手紙をお許し下さい。』
 
そんな書き出しから始まる文面。内容は…恋文でした。
初めまして、ってことは、会ったことが無い人に書いたってこと?
会ったことが無い人への恋文って、どういうこと…?
 
文面は少しぎこちないのだけれど、暖かさを感じます。
きっと、これを書いた人は、いい人なんだろうな。
他の人に宛てた恋文なのでしょうけれど、とても幸せな気持ちになりました。
 
読み終えた手紙を封筒に戻すと…
封筒の色が赤から黄色がかったオレンジ色に変わりました。
うん、この手紙には、この色の方が似合うわ。
 
 
 
 
さあ、お次は白い封筒。
 
白いヒツジみたいな色。
広い緑色の芝生の上で遊んでいるヒツジを思わせるような白が、きれい。
子供が描いたようなカラフルな絵の切手が、すてき。
さてさて、中の手紙は…。
 
『こんにちは。いつも澄み渡る春の空のような、そんな気持ちで
 過ごすことが出来たなら、とっても嬉しいですね。
 さて、このたび弊社では、これまでに無い画期的な掃除機を開発
 致しました。
 お掃除が苦手で嫌いな奥様、旦那様、お一人様にも、きっと重宝
 して頂ける商品であると自負しております。
 食べる物が無いと困りますが、部屋が汚くても死にはしません。
 確かに、それは正しい事実です。
 けれど、いま一度立ち止まり、お考え頂きたく存じます。
 我々は食べるために生きているのではなく、
 生きるために食べるのだ、と。
 そんな文化的生活を過ごされているお客様を対象にした、近代的な
 電化製品と申せましょう。』
 
内容は掃除機の宣伝でしたが、なんだかずいぶん真面目で丁寧な文面です。
それにしても商品の写真は無く、文章だけの広告。なぜ?
 
手紙(広告)を封筒にしまったら、今度は何色になるかしら。
と、しばらく待ってみたものの、白色のままでした。
 
 
 
 
さて、最後に黒い封筒。
開けるのが、ちょっと怖い。だって黒いんだもの。
 
『お久しぶりです。先日、消火器を販売させて頂いた者です。』
 
鉄仮面さんだ! 鉄仮面さん!
(最初に登場した非日記:「鉄の仮面と山田」参照)
 
白い封筒と同じく、内容はセールスでした。
だけど、もっと素っ気ない文章の、普通の保険の広告。
消火器を売るのは、やめてしまったのね。
もっと楽しいものを売ってくれないかなあ。
でも、それじゃ商売にならないのでしょうね。
 
手紙(広告)を四つ折りにして封筒に戻しました。
すると、封筒は手の中から、すぅ…と消えてゆきました。
 
鉄仮面さんらしいな、と思いました。
今度来る時は、また別のものをセールスしているんだろうな。
 
 
 
 
手の中には、2つになった封筒。オレンジ色と白。
 
以前届いた、引き出しの中の7つの封筒と、それを併せ、
合計9通をシャッフルし、カバンの中に入れました。
 
 
明日、町へ出かけたら、1軒ごとに1通ずつ投函してみます。
こうして手紙のいくつかが、いろいろな人に届けられ続けたら面白いな。